Collier 前川秀樹の部屋
Collier 前川秀樹の部屋
波打ち際で拾った、つるつるの貝殻のかけらや、秋の山で採った熟れた真っ赤な樹の実、潰れた工場跡の地面で踏みつぶされた窓ガラスの欠片。きらきらと光を反射する黄金虫の片羽。そんな小さなもの達にも厳然と世界は宿る。

世界にまだ、<果て>と<ほの暗い闇>とが存在していた時代。科学も化学も芸術も神話も未分化だった時代。僕は、そんな<縁取られる前の世界>にずっと焦がれている。きっと世界は恐ろしく、そして美しかった。人と世界は対等ではなかった。人は、恐ろしくも美しい世界の欠片を喉元に飾った。Collier 首飾り。それは自らの身体を供物に見立てて彩飾する行為。あるいは世界への身の程知らずの未熟なプロポーズ。

しかしいずれにしろ、モノを美しいと思う心の働きがなければ人が琥珀や黒曜石を手に取ることはなかっただろう。コレクションという行為。生きるためだけに必要な道具は余分には必要ない。にもかかわらず人は余分なモノを集める。眺めて愛でてなでまわして。どうしようもなくその役立たずどもを好きになる。

今、美しく広漠としていた世界は箱庭のように矮小で、薄汚れたものになってしまった。僕は夢想する。失われた世界の果ての修復を。そんな愛すべき役立たずどもをつなぎ合わせながら。

前川秀樹
展示風景
as it is 個人コレクション展7

Collier
前川秀樹の部屋


2012年4月27日(金)より
2012年9月23日(日)迄


museum as it is

297-0154
千葉県長生郡長南町岩撫41
tel.&fax. 0475-46-2108
開館日/金・土・日・祝日
開館時間/10:30→16:00
入館料/800円
東京連絡所/tel. 03-3953-6312





前川秀樹(まえかわひでき)

淡路島生まれ 1989年武蔵野美術大学油絵学科卒、1996年渡仏。彫刻・絵画・生活道具などで個展、グループ展、ワークショップなど多数。2006年ごろより、里山の伐採木を人の形に刻む「像刻」シリーズを開始。同年よりDEE’S HALL(東京)、ギャラリーたむら(広島)にて像刻個展数回。著書に像刻作品集「VOMER」、物語集「Zuhre」がある。現在雑誌『住む。』にて、小さな物語を連載中。